瀬戸内にあるホスピスが舞台。
レモン島と呼ばれるその島にライオンの家というホスピスがあり、
病気を抱えた人が人生最後の日々を過ごす。
主人公は三十三歳の女性。
ステージⅣの癌を患っていて
病院で死を迎えるよりも
暖かい場所で毎日海を見ながら
残された日々を送りたいと思い
ライオンの家と呼ばれるホスピスに来た。
ホスピスの代表である「マドンナ」はメイド服をまとった
白髪のおばあさんで、誰にでも安心感を与えるような人。
ライオンの家で働く料理担当の双子の狩野姉妹も個性的。
このライオンの家では日曜日におやつの時間がある。
ゲストたちの思い出のおやつが、エピソードと共に
振る舞われるのだが、それがなんとも素敵で
どうしようもないくらいに切なくなる。
思い出という言葉が作中の人と私とでは全く重みが違った。
元気だったあの頃、若かったあの頃がもう戻ってこないと
死を具体的に目前にして人は実感するんだろうなと思った。
私も人生最後に食べたいおやつは何かと考えた時
ひとつに絞るのが難しいというのもあったけど
なかなか思いつかなかった。
今が思い出になるということを考えて生活してこなかったからか
食べ物の特におやつの思い出が薄いことに気がついた。
読み終わった今も最期に食べるなら何かいいか分からない。
もしかしたら私自身が今は忘れていて
あったかもしれない人生が失くなったときに
急に思い出すものなのかもしれない。
マドンナや狩野姉妹が醸し出す穏やかな雰囲気と
ライオンの家で出会うゲストさんたちの明るくて
ユーモアのある態度にほのぼのした気分になるけれど
みんな病気で人生の最後の時を過ごしているんだなと
所々で思わされる作品。
余命を告げられた時の主人公の感情や
辛い治療も痛いほどに伝わってくる。
病魔と闘うドキュメンタリーなんかを見ても
今までは正直どこか他人事だった。
でもこの作品はページを開く度に自分事として考えられた。
主人公の年齢が自分と近いというものあったのだろうけど、
病気というものはある日突然やってきて
それまでの日常を日常でなくしてしまうという事、
それが誰の身にも起こりうる事だと
突きつけてくる作品だからだと思う。
もしも自分が近いうちに癌になったら?
家族の誰かが余命宣告をされたなら?
自分は受け入れることが出来るんだろうかと考えた。
私では抱えきれない現実だと思う。
実際にその時になってみないと分からないけれど
きっと最後まで向き合えないんだろうな。
だからこそ、ライオンの家を終の住処に選んだ
主人公の強さに心打たれた。