この間、夫が娘を連れて一日出かけてくれた時があった。
さて、1人の時間何しよう?と胸を高まらせて
甘いお菓子を用意してコーヒーを淹れた。
近頃はコーヒーテーブルでだらだらしながら
おやつを食べるなんてことは出来ないので
この時は好きなBGMを流して
テレビの前で文庫本を開いた。
しっかり読んでも良かったのだけど
好きな本の好きな場面だけを読む
気ままな読書をした。
「赤毛のアン」のアンの青春。
シリーズの中でダントツに好きだと言える一冊。
こちらの作品でお気に入りの場面は二つ。
アンがお隣さんとゴタゴタするところと
憧れの女性ミス・ラヴェンダーと出会う場面。
冒頭にお隣に越してきたハリソン氏から
クスバート家の牛が自分の畑に入り込んだと
苦情を言われるが、その後和解する。
和解までの経緯も面白い。
アンがハリソンさんの家まで
焼き菓子を持って訪ねて
お茶会までしてしまうのが
アンに備わった天性の愛され気質なのかなと
しみじみ感じた。
そのお茶会のシーンが好き。
お互いに歩み寄りたい気持ちがあるのに
ハリソンさんの飼っているオウムが
「赤毛の甘っちょめ」
と暴言を吐く。
前日に揉めた後彼はこんな悪口を言っていたのが
バレた気まずさが読者としては面白かった。
アンの方もそれで怒るわけには行かない事情が
あって2人のギクシャクした空気が
なんとも滑稽で微笑ましくなる。
最終的にハリソンさんはオウムを
隣の部屋に閉じ込めてしまう。
そこでようやくちゃんと会話ができるようになると
2人は良き友人同士になれた。
この一件以来、アンに何かあると
ハリソンさんは皮肉を交えながらも
友人として励ましてくれる。
アンよりはだいぶ年上だが
だからこその言葉なんだと思えるセリフもちらほらある。
また彼の風変わりな生活も注意を引く。
奥さんはおらず、家の中は散々で
皿洗いは雨降りの日曜日のみ。
食事は自身が空腹を感じた時に
「かっこむ」スタイル。
さらに「女なんていう馬鹿者どもにはそばにいてもらいたくない」
と言い放ちアヴォンリー中の女性を敵に回している。
新参者なのにやるな・・・。
レイチェル夫人とはもちろん敵対している。
第一印象は良くないが、読み進めるうちに
癖はあるけど憎めない人物が何人かいるのが
赤毛のアンの魅力だと思う。
一作目から登場する近所のレイチェル夫人も
最初はアンの赤毛を馬鹿にして
揉めたがすぐに仲直りしている。
揉め事の後に仲直りしたアンの友人は
実際のところとても良い人が多い。
揉め事の原因は大体が赤毛を馬鹿にされたことで
アンが激怒してしまい、相手を驚かせるなり
怒らせるなりしてしまう。
それでもアンの方から歩み寄ると必ず和解できる。
人のコンプレックスを揶揄っておいて
怒られたら癇癪持ちだなんだと機嫌を損ねる方が
悪いと個人的には感じるけれど。
ひたすら怒った後に必ず自分で謝れるのも
アンが多くの人から愛される要因なんだろうな。
また、アンの青春の中で特に好きな人物が
中盤に出てくるミス・ラヴェンダー。
彼女は昔恋人と喧嘩別れして
「やまびこ荘」という家に下女と暮らしているのだが
とても素敵な女性。
アンが初めて訪ねた時
テーブルの上にお茶会の用意がしてあったが
誰かがくる約束はなかった。
彼女は1人でごっこ遊びをしていたのだ。
大人になってもそんな楽しみを持って遊べる
ユーモアのあるところが好き。
またその後の彼女のロマンス溢れるストーリー展開も
個人的にお気に入り。
全てがハッピーエンドで安心して読める。
アンと吹雪の夜に暖炉の前で
「消化に悪い」キャンディーを齧っている場面は
なんだかほっこりしてあたたかな気持ちになった。
寒い外とあったかい室内というシェルター的な
連想をさせて、さらに甘いものを夜に食べているという
安心感と背徳感が読者の共感を得るのだろう。
寒い冬の日、だらだらぬくぬく適当にページをめくった
気ままな時間がとても贅沢で穏やかなひと時だった。
現実逃避できるこんな本の読み方もありだろう。