桜並木の端にある「マーブルカフェ」
そこの切り盛りを「マスター」から任された
青年の淡い恋心から始まる、とても温かい気持ちになれる作品。
青年の心の中をプロローグにして
次の章からはリレー形式で
マーブルカフェのお客さん視点で
物語が展開していく。
みんなそれぞれ胸に抱えている思いや悩みと向き合っていく。
時には自分で、時には誰かに慰められながら繋がってく物語。
青山美智子さんの作品は、初めてだったけれども
この一冊で好きになった。
ずっと我が家の書棚にあったのだが、開くタイミングがなかなか無く
今回、ほのぼのした小説を読んでみようと、手に取った。
作品の和やかな雰囲気も良いのだが、
青山美智子さんの本といえば装丁も魅力的。
可愛らしくて、どこかほっこりする世界観に
ずっと眺めていられるくらい惹きつけられる。
他人同士だけれども、同じ喫茶店に通う共通点がある。
個人経営しているお店には店独自の雰囲気があり
その雰囲気が好きだという似通った感性の人たちが
間接的に関わっているというような印象を感じる。
物語自体も読み手を包み込んでくれる優しさがある。
どのお話も自分は自分のままでいいんだと思える内容となっている。
特に2章の「生真面目なたまご焼き」では、
ありのままの自分を受け入れてくれたような安心感を得られた。
ワーキングママが1日だけ保育園の送迎とお弁当を頼まれる。
入園式以来行っていない保育園に入っていく時の気まずさや
周りの視線を気にする様子がなんともリアル。
家庭の在り方はそれぞれで、いろんな形が受け入れられているとはいえ
母親が家事育児をするという基本があるため、主人公のママさんが感じる
罪悪感や自分が「浮いている」という感覚が痛いほどに伝わってきた。
普段自分が置かれている空気感と全く違う所にポンっと出たなら
誰だって戸惑うし、少々の場違い感は出てしまう。
全く気にしないか、尊敬や羨望なのか、はたまた嫉妬なのか
主人公を見つめる他のママさんたちは何を思っていたんだろうと
考えると怖さも切なさもある。
きっと多くのママたちの中には
「私だってあんな風になりたかった」と考える人もいるんだろうな。
そして、たまご焼き作り。
普段料理をしない主人公は次の日のお弁当に入れる
たまご焼きを帰宅後に練習するのだが、なかなか上手くいかない。
それでも、彼女の息子も夫も否定しなかった。
人にも物にも、それぞれ適材適所がある。
そんな言葉に読み手までも慰められる。
オーストラリアにワーキングホリデーに行った後
シドニーで記者として働いた経験があったり
帰国しても、雑誌編集者としての経歴があったりと、
作者自身にもキャリアウーマンな雰囲気が感じられ
海外と日本の温度差や、主婦になって経験した事柄をもとに
作られた物語なのかななんて想像した。
青山さんの他の作品で「TIME」誌にも載った
「お探し物は図書室まで」や、
彼女が作家になるきっかけとなったとされる
氷室冴子さん「シンデレラ迷宮」も次に読みたい作品。
また、全く関係ないようでも、同じお店に通っているという
共通点で影響し合う人間関係が、現実にもあるかもしれないと
思うととてもロマンを感じる。