面白さ★★★⭐︎⭐︎
好き★★★⭐︎⭐︎
おすすめ★★★⭐︎⭐︎
林真理子さんの「下流の宴」
東京にそこそこの一軒家を構えて
父親は早稲田出身で一流の企業に勤めるサラリーマン
自身も公立の四大を出ている専業主婦。
15畳のLDKにシャガールの版画を飾り花を絶やさない。
そんな「中流家庭」を守ってきたと自負する由美子。
彼女は自分の子供たちの教育にも力を入れてきた。
娘の方は有名なお嬢様学校と呼ばれる大学に入り
由美子自身と似通った価値観に育ったが
息子は高校を中退してアルバイト生活。
期待していただけにがっかりするが諦めきれず
説得を繰り返すが一向に響かず。
そんな様子から物語が始まる。
林真理子さんの作品を読むのは3作目だが
今回は1人の女性にスポットが当たるわけではなく
主に二つの物語が同時に進んでいく。
由美子と対になるヒロインが珠緒という女の子。
息子が結婚したいと連れてきた女性であり彼女もアルバイト生活。
あることをきっかけに医者になることを決意する。
器量が悪いと書かれているが素直で明るい性格のため
気にならない程度だろうと想像している。
ちゃんとした仕事に就けなければ結婚などできるはずがないと
由美子はいうが、2人のアルバイト代を合わせれば生活出来なくないと
主張する息子。
アルバイトでもやっていけるという息子、翔の言い分もわかるけれど
正直きついよな〜と読みながら思っていた。
彼にはずっとイライラさせられた。
最初は、いわゆる教育ママである由美子に対して窮屈だと感じているのだろうとか
何か障害があったりするのかなと考えていたけれどそうでもない。
ただただ勉強が嫌いでしんどくなり高校は中退
家を出てバイトしながら彼女と同棲生活。
そんな彼に対して掛けられる大人たちの言葉には頷ける。
生活出来ているんだからほっといてくれという翔にも共感できるところも
あるけれど、やっぱりちょっと違うよな〜と感じる。
作中に翔は医者を目指すことになった彼女に対して
「ガツガツした女の子って苦手」
「頑張っている人が苦手で一緒にいるとしんどくなっちゃう」
とか言っているが、なんじゃそりゃと引っ叩きたくなった。
自分が頑張れない上に自身と向き合うことも出来ず
面倒なことから逃げていてそれを非難されたら
一丁前に不機嫌になる。
もしも私が由美子の立場でも結婚はさせられない。
2人ともアルバイトではどうにもならないというだろう。
ではなぜ、どうにもならないのかと聞かれて
全く上昇志向のない男の子を納得させられる説明ができるか
といえば自信はないが。
また由美子が珠緒を受け入れられない理由として
自分たちとは生活のレベルが違うからというのもある。
自分は医者の娘であり、今までもこれからも中流家庭なのだ。
しかし珠緒は沖縄生まれで片親で品もなく器量も悪い。
私たちとは住む世界が違っていると考えている。
とても冷たくてひどい女だと感じるけれど
私はそんな由美子の価値観も含めて彼女が好き。
くだらないプライドがあってもいいだろうし
自分は「中流層」という自覚を持って
そんな振る舞いをするのもよく分かる。
見栄っ張りな部分も自分と共通するものを感じる。
ガチガチに勉強させてなんとか有名な大学に子供を入れようとする気持ちも
分かるし私自身に誇れる学歴がないため自分もそんな教育ママになりかねない。
だから息子が「格下」と結婚したいと言い出した時に
反対した時も、彼女の弟がトラブルを起こして
姉弟2人をやり過ぎなくらい避難した時も由美子の肩を持った。
でもそんなガチガチに固めてしまった教育や見栄が
息子を追い詰めてしまったんだろうな。
そう思うとなんだか虚しくなった。
物語の最初にドラマみたいな展開を予想させて
華やかな中盤があり少ししょっぱい感じで終わる。
今まで読んだ林真理子作品のパターンだと思うが
今回は特にしょっぱさを感じる終わり方だった。
お金持ちで日々仕事に遊びに精を出している人
アルバイトでなんとかやっている人
登場人物が多く、それぞれの視点で話が進むので
誰が好きになるか共感できるか、また嫌いになるかは人によるだろう。