面白さ★★★★⭐︎
好き★★★⭐︎⭐︎
おすすめ★★★★⭐︎
「養鶏場の殺人」は1924年のイギリス南部で
実際にあった事件を小説化したものらしく、
後味の悪い結末だった。
現実とはなんてしらけていて冷たいんだろうと思わされた作品。
このお話のヒロインはエルシーという幸の薄い女性。
年下の好青年と出会って交際するが、
彼が仕事を失ってから歯車が徐々に狂いだす。
職を失ったエルシーの恋人ノーマンは、この頃から
感情の起伏が激しいエルシーに対して
うんざりしていて、彼女と距離を置くために
田舎で養鶏場を始める。
この養鶏場の経営もなかなか上手く回らず、
同時にエルシーや彼女の家族から結婚を迫られ
ノーマンは追い詰められていく。
執着心が強く、癇癪持ちで思い込みも激しいエルシーに
ノーマンが嫌気がさすのは読みながらも想像がついた。
冒頭の部分でノーマンがエルシーを切り刻んでしまうのは
分かっていたので、これからどんな風に二人が揉めて
殺人事件にまで発展してしまうのか
心をざわつかせながらページをめくっていた。
読んでいれば、ノーマンがどれだけ救いのない日々を
送っていて相当に追い詰められていた事が自分のことのように
伝わってきた。
仕事も上手くいかなければ、私生活も円滑に回っていない。
そんな時、誰にも頼れないなら精神的におかしくなっても無理はないんだろう。
もう少し下調べをしてから、経営を始めたらよかったねとも思ったが
彼の年齢からしたら、焦る気持ちに負けて見切り発車的なことをしても
仕方がなかったのかな。
そして多分エルシーも追い詰められていたと思う。
自分の人間性が原因だったとしても、家族からでさえも
煙たがられるのはさぞ辛かっただろうな。
多分自分でも気づいていたんだろうな。
自分の年齢、弟や妹が結婚していく状況
異性との縁が薄いことなんかが相まって
焦ってしまう気持ちも分からなくはない。
でもその焦りが恋人を冷めさせてしまう原因であって
現実の手厳しいところなんだなあ。
登場人物の誰か一人でもノーマンかエルシーに
真剣に寄り添ってあげられたら結末は違っていたのかな。
または時代が違えば・・・なんて色々考えてしまう。
イギリスに「クイック・リード」なるものがあり
本をあまり読まない大人に向けて読書に馴染んでもらうことを
目的として立てられた計画の事で、この作品は2006年の
ベスト・クイック・リードに選出されている。
誰でもその作品について語れる中編を書く。というのが
作家側に与えられた課題なんだそうで、流石に読みやすかった。
ボリュームもほどほどで、展開も早く、キャラクターも少ない。
読書好きにはもちろん、読書入門としてもおすすめな作品。
「火口箱」の方は絶賛読み込み中。
養鶏場の殺人に比べると、少しややこしい印象がする。
人種差別が題材となっていて、そこにムラ社会という
閉ざされたコミュニティ特有の怖さが混じっている。
どちらも他人事ではないと思わされる内容で
濃い時間を過ごせる一冊。