結婚詐欺と三件の殺人の容疑がかけられている梶井真奈子。
彼女は決して若くもなく美人でもなく、むしろ醜い方だった。
梶井の事件が表沙汰になると、世間は事件を起こしたことよりも、
なぜ、若くも美しくもない梶井が多くの男性から
金銭的な援助を受けられるのかと疑問を持ち、
梶井の容姿に対する誹謗中傷が横行した。
梶井は自身のブログでな華やかな私生活、作った料理などを載せていた。
「梶井から学ぶ」などという文句付きの本や特集も組まれるほどだった。
容姿を見下しつつも、世の中のほとんどの人が、
どうしても気になる存在だったのかもしれない。
週刊誌の女性記者、町田里佳も彼女に惹きつけられたうちの1人で
何とか取材をさせてもらえることになった。
梶井に会う度に、彼女の作ったものを作り、食べたものを食べ、行った所に行く。
彼女の私生活を出来る限り真似して、被告が見たもの感じた事を見て感じようとした。
166センチで体重はおそらく50キロ前後だと思われた里佳が
作品を通して10キロほど太ってしまう。
表紙の印象からは考えられないほど、重たい作品だった。
それこそバターのように濃厚で重たいのだけれど
摂り続けてしまうような魅力もあった。
作品のタイトルでもあるバターは、梶井真奈子が大好きな食材であり
バターを使ったレシピがたくさん出てくる。
熱々の白米に冷えたバターを乗せ、醤油を一滴垂らした「バターご飯」に
バターをたっぷり絡めた「たらこパスタ」
聞いただけでも美味しそうなメニューだけど
作製の過程や味の表現も細かくて、読んでいても口の中に唾が溜まっていく。
自分からはあまり、たらこを食べない私も思わずたらこパスタを作ってしまった。
前半は里佳が梶井から伝えられたレシピやレストラン、食材を使って
美味しいものを食べるというどこか穏やかな雰囲気もあった。
容疑をかけられている殺人についても、証拠というものはなく、
自殺にも見えるため、それについては容疑が晴れるようにも思える。
犯罪者までは行かないにしても、ちょっと問題のありそうな人に関わっていくうちに、
「もしかしたら自分は相手の心を開き、お互いに理解し合える関係になれるんじゃないか」
と思われる場面を時折見かける。
そして、本当に分かり合える展開を迎える作品もあるだろう。
でも、実際にはそんな事は起きるはずもなく
こちらが心を開いたら、相手の思うツボであり
知らないうちに取り込まれてしまう。
里佳も自分では気づかないうちに梶井に飲み込まれていたんだと思う。
そして私も一緒に梶井真奈子という女性に惹きつけられていた。
実際にあった事件がモデルとなっていて
日本のどこかで、里佳が迎えた末路も含めて
見たようなことが起きていたのかと考えると
より一層BUTTERという作品の重さや濃厚さを実感する。
痩せていることや若くて綺麗であることが
良しとされる世の中に、特別美人でもない人が
目立ってしまうと異常なほど関心を集めるのは、
無意識に見下している存在が
どんな最後を迎えるのか見届けたいのだからかもしれない。
「人の不幸は蜜の味」という言葉と同じように
自分とは縁もゆかりもないけれど、
不美人のくせに目立った存在が迎える不幸は
バターのようにカロリーが高く摂り過ぎ注意だが、
美味しくて病みつきになってしまうんだろう。